2013/09/11 めきしこのおもいで

むかし、ロサンゼルスでバスに乗っていたところ、ヒスパニックの運転手に「セニョールはどこの出身か?」と聞かれた。日本だよと答えると、「なんと。俺はメキシコのどこかが聞きたかったんだけどな」と言われた。その後も、焼肉屋のヒスパニック兄ちゃんに「おまえ本当に日本人か?」と聞かれるなど、徐々にメキシコは第二の故国になっていった。

そんなことを思い出しながら、ニューヨークからメキシコへと向かった。今回が初メキである。

とはいうものの、そもそも目的地としてメキシコに行くわけではない。経済制裁のせいでアメリカからキューバに直接いけないので、泣く泣くメキシコに行くわけである。ビバ・メヒコ。

朝の3時半に起き、寝ぼけた飼い主に見送られつつ (ネコは熟睡) タクシーを捕まえてJFK空港へ。そして朝一のアエロメヒコに乗った。なにはともあれ眠い。気付くとカンクンに向かって着陸態勢に入っていた。

その後、いまとなっては定かではないものの、漫然とメキシコへの入国を果たし、緩慢にキューバ航空のチェックインに並び、漠然とメキシコを出国していた。空港のバーで、なんとなく銘柄の発音がわかったテキーラを一杯、さらにメニューにある一番高いテキーラを一杯。これで漫然かつ緩慢かつ漠然としていた第二の故郷の記憶が全てなくなった。

異様に座席の間隔が狭いキューバ航空に乗ってメキシコを出た。わずか4時間半の初メキだった。

2013/09/10 にゅーよーくのおもいで

ある日、ドクターしんコロからニューヨークに引っ越すと連絡がきた。

僕が彼の債権者であるわけではなく、彼が僕の債権者であるわけでもなく、あまり知らされても大して意味がないのだが。たぶん、社会通念上、連絡してくれたのではないかと思う。

シアトルからニューヨークへのステップアップ。イチローみたいだ。きっとマンハッタンのドアマンつき高級アパートに住むんだろう。そういうアパートをアパートと思うなかれ。

ともあれ、ぼくには社会通念がない。残念ながら。

真に受けて、ぼくはニューヨークに行くことを考え始めた。寒い時期にマンホールから湯気が立つなか、コーヒー片手にロングコートを着て歩く。やはりニューヨークに行くのは晩秋がいい。

一方、夏休みの計画を考えたとき、いくならキューバだと思った。いましかない。いまでしょ。

世界情勢をひもといてみると、カリブ海は冷戦状態。ハバナに行くのは、一昔前の東ベルリンに行くようなものだ。とはいうものの、地理的な視点でみると、ニューヨークとキューバは近い。

うーむ。遠いのに近い。どちらもいましかない。どちらもいまでしょ。

そんなこんなで、とりあえず若干のニューヨーク滞在を決意した。

2013/09/07 なつやすみのけいかく

母親の実家を片付けていたら出てきた、高校時代に撮った写真。槍ヶ岳の朝焼け。高山植物。雪の朝。いかに高校時代に学校へ行っていなかったか分かる。これだけ出かけているのに、しかも学校をサボって昼寝をしていたのだ。アクティブな登校拒否児である。

毎年、オッサン二人で旅に出ている。

5年くらい前に酔った勢いでキューバに行くことにしたのだが、オッサン同士なかなか休みの日程があわず、最初の年はサンフランシスコで妥協した。カリブへの途中というか、とりあえず太平洋を渡ってみたのだ。その後、オッサン旅行は毎年の恒例行事となりつつも、二度と太平洋を渡りきることはできず、香港あたりで済ませることが常態化している。

今年も一月のある日、懲りずにバーで酔っぱらっていると、4日くらいでサンクトペテルブルグに行くような話になった。運河沿いの小道を背中を丸めて歩き、ウオッカをひっかける。ロシア的な暗さとアル中具合が、オッサンの哀愁漂う感じでよろしい。

が、サンクトペテルブルグは遠い。距離的には可能だが、乗り継ぎなどで時間のロスが多く、時間的には西ヨーロッパと大差ない。4日では厳しそうで挫折した。

その後、三月に焼鳥屋で酔っぱらっていたところ、南の島に行くのが良かろうということになった。いまいちオッサン二人で南の島に行く意味が分からないが、少なくともロシアよりは明るい感じである。南の島といえば、羽田を深夜に発つガルーダがあり、朝にはバリにつく。同じく深夜の羽田からはホノルルにも行ける。

が、バリにはジゴロがいるらしい。オッサンはジゴロには引っかからないだろうが、物売りやらボッタクリオヤジやらが跋扈している魑魅魍魎の地のようだ。しかも、バリへの直行便はガルーダだけなせいか、異様にチケットが高い。

一方、ホノルルいきの航空券市場には市場原理が働いているものの、ホノルルまで4日では日程的に厳しい。日付変更線の加減か、なんか損している気がする。4日にこだわる必要はないが、基本的にはキューバ旅行の妥協案であるから、長い休みを取るのであればキューバに行くべきなのだ。

なかなか場所が決まらない一方、僕は今年は初夏にイタリアで所用があった。所用といっても私用なので、散財するのみ。経済状況をふまえた上で近場のビーチを探すと、グアムあたりで妥協するのが良さそうに思えてきた。

しかも母親の実家を売却することになり、夏休みは手伝いでつぶれることになった。全て片付いたあたりで4日くらいグアムでダラダラしているのが妥当かもしれない。しかし旅行先としてグアムはイマイチ面白みがない。

なかなか決め手に欠く中、ふと気付くとマレーシアという国があった。島ではないが、南国のビーチがあって、ジゴロはいない。しかも深夜に羽田を出て、バンコクかシンガポールで乗り継げば効率的な日程を組める。

そんな思いつきで、5月半ばには、年内にマレーシアに行く計画になっていた。半年も先の話である。計画性がないようでいて、妙に計画的だ。

一方、不動産市況は流動的だった。夏休みに物置の雑物ガラクタを片付けようと思っていたのだが、夏前には買い手が見つかってしまった。結局、片付けを手伝う時間はなくて、引っ越し屋さんの梱包サービスを使うことになった。

そしてタナボタで夏休みが生まれた。自由すぎる喜び。
こういう時こそキューバに行くべきだ。

成り行き上、知り合いオッサンにキューバに行かないかと誘ってみたが、どうも休みは取れないらしい。しかもダメ押しのように「マレーシアに行くのを楽しみにしている」とのことである。他人をどうこう言えた義理ではないが、そんなに僕と旅をしたいのか。

期待を裏切るわけにはいかない。休みを無駄にするわけにもいかない。

泣く泣くキューバとマレーシアの両方に行くことにした。計画的であるようでいて、妙に計画性がない。自分の人生を見た気がした。

2013/05/31 ぶたぺすとのおもいで

最初はイタリアだけで帰るつもりだったが、ハンガリーのブタペストにある、ウニクム (Unicum) という薬草酒の工場を見せてもらえることになった。僕が薬草酒を飲み出すきっかけになった酒である。しかも、よくよく考えるとアスパラガスの季節である。調べてみると、ミラノからブダペストに格安航空会社が飛んでいたので、ついつい行ってしまった。ハンガリー語は全く分からないが、なぜか3度目のハンガリーである。

イタリア料理ばかり食べていたので、ハンガリーに着いた日にバーガーキングへ行った。ケチャップとマヨネーズ、柔らかいだけのパン、ラードっぽい油で焼いた肉。非常に心が落ち着く。

今回の旅で、硬めに茹で上げたスパゲティと酸味のきいたトマトソースが似合う地中海系ダメオッサンを目指そうかと思ったが、なかなか道は険しい。

2013/05/31 みらののおもいで

ミラノで半日あったら、どうしようか。

とりあえず5時に起きて、ガッレリアに行った。僕はダビンチの絵には興味はなく、大聖堂のテラスに興味もなかった。ミラノと言えばガッレリア。

ガッレリアと言えば谷中銀座の豪華版みたいなものだから、買い物をしにいくべきところなのだろうが、僕はガッレリア自体を楽しみたい。ガッレリアの営業中は、プラダに行く奴もいれば、カフェにいる奴もいるし、僕と同じようにガッレリアを見に来る奴もいる。やや騒々しく、風情は感じられない。牛の股間で回るのにも順番待ちするほどである。

故に早朝にガッレリアに行ってみた。

早朝のガッレリアは仄かに明るい空がガラスドームから見え、街灯がついており、人もまばら。ガッレリア自体を眺めるには良い頃合いと言える。

ちなみに谷中銀座にも風情はあるのだが、プラダに行く奴は通らないし、酒屋の前でビール飲んでるのが精一杯で、むしろ下町の風情である。明け方には散歩してる老人くらいしかいないが、風情を感じる前に、朝まで飲んでしまった後悔の念に襲われるのが関の山だ。

牛の股間も十分に堪能したのち、ホテルに戻る。眠い。わざわざ5時に起きたからだ。朝から昼寝。アホだ。

8時まで昼寝をして、フェルネット・ブランカ (Fernet Branca) のミュージアムに行った。イタリアが誇る輸出品は多くあるが、フェラーリやらアルマーニを越えて、フェルネット・ブランカが最高ではないだろうか。車でも服でも革製品でもなく、酒である。苦い薬草酒だ。基本的にはウイスキー飲みの僕だが、単一の生産所としては最も多く飲む酒である (ウイスキーは蒸留所の数が多いから)。記憶を失いかけていることが多いので定かではないが、たぶん月に1本くらい飲んでいるはずである。

それがミラノで生産されている。これは表敬訪問せずにはいられない。地下鉄に乗って、昔はミラノの外れだった工業地帯に出かける。1時間少々のツアーの後、酔っぱらっていた。

美しいものを鑑賞し、牛の股間を堪能し、酒に敬意を払い、昼寝をした上に酔っぱらった。極めて生産的な半日を過ごした。ミラノは素晴らしい。