人間は考える葦である / 青森・北海道

Sea of Japan in Winter Dusk

Henashi Fishery Port

Morning View from JR Gono Line

Afternoon View from Donan Isaribi Railway

2月に台湾で家族旅行のツアーガイドをした。結果的にガイド業務が旅程全体の半分程度だったとしても、自分自身への慰労が必要だと思った。既に台湾へ行く為に会社を休んでいるので、週末の1泊で考える事にした。

日本人の慰労には温泉だろう。2日間だけだと近場で妥協したくなるが、旅とは非日常を求めるものだと思っている。どこか遠くに行きたい。

青森県のJR五能線に黄金崎不老ふ死温泉がある。海辺の露天風呂で有名な宿だが、塩分があって微量な油も浮いている泉質も好きなのだ。冬なら混んでいないので、久々に行ってみる事にした。

JALの特典航空券は需要に応じて必要なマイルが変動するが、一方でマイルさえあれば予約が取りやすい。行きは青森空港から弘前に出て五能線に乗る。翌日は五能線の快速で新青森へ行き、そこから新幹線で函館の寿司屋さんに行こうと思っていた。そして函館空港からの最終便で東京に帰れば良い。今まで何度か行った場所を組み合わせただけであり、特に考える事もないだろう。

台湾では旅行予定を変更し続けていた。その慰労の旅であれば、新鮮味がない程度が良い筈である。

新青森から北海道新幹線に乗ったところ、たまたま新函館北斗まで全駅に止まる列車だった。このまま函館まで行っても面白くないかもしれないと思い始めた。人間は考える葦である。なにかを考える頃合いだろうと考えてしまった。

こうなると僕は止まらない。

木古内駅から函館駅まで「道南いさりび鉄道」に乗る事を思い付いた。新幹線の中で時刻表を調べてみると、ちょうど接続の良い列車があった。その列車が函館に着いてからバスで寿司屋さんへ行くと、予約通りの時刻になる。新幹線料金の一部を無駄にしてしまうが、木古内駅で下車する事にした。決断したのは新幹線が木古内に着く1分前の事である。

道南いさりび鉄道は極めて地味なローカル線だった。いまやJR北海道でも使っていないであろう、国鉄型のディーゼル車両に乗車した。しかも途中駅で行き違った車両が、昔ながらの朱色塗装で更に味わい深い

社名に「いさりび」が入るだけあって、のんびりと道南の海を見ながら旅ができた。列車の出発まで少し時間があったのに、ビールを買っておかなかったのが悔やまれる。

目先を少し変えると、新たな発見があった。慰労だからと言って、惰性に流されてはいけないのだろう。人間は考える葦なのだから。

旅のしおり:不老ふ死温泉

記載の時刻等は訪問時のダイヤです。

1日目

東京羽田 0715 (JAL141) > 青森 0835
青森空港 0900 (弘南バス) > 弘前駅前 0954
弘前 1021 (JR) > 深浦 1244

昼食:セイリング

深浦 1442 (JR) > ウェスパ椿山 1457

宿泊:黄金崎不老ふ死温泉

2日目

ウェスパ椿山 1038 (リゾートしらかみ1) > 新青森 1327
新青森 1359 (はやぶさ17) > 木古内 1449
木古内 1519 (道南いさりび鉄道) > 函館 1622

夕食:木はら

函館 1930 (JAL588) > 羽田 2100

理想と現実の間 / 台北

Letterpress Printing Shop

Tea Wholesaler

National Railway Museum

National Railway Museum

今回の台湾旅行は思い付きによる行動が多かった。

藍皮解憂号の乗車を終えて台北に戻った時には、既に21時を過ぎていた。台北松山空港から翌日夕方の飛行機で帰国するので、台北には半日程度しか滞在できない。

台湾には家族旅行のプランナー兼ツアーガイドとして行ったのだが、ガイド業務が台中だけに限定されているのか不明だった。僕は「無知の知」を信じており、世の中には知らない方が良いこともある。旅の最終日となる台北での予定については敢えて不明のまま時が流れたが、出発直前になってもガイドとしての用事は無いようだった。これを好機と捉え、台北でも思い付くまま予定を詰め込んでみる事にした。

最初の台湾旅行の際、台北から高速バスで宜蘭にあるカバラン蒸留所に行った。さすがに今回は蒸留所には行けないが、台北には蒸留所直営のバーがある。そこでフランスの有名シャトー樽を使ったウィスキーが飲めるとの事。また、台北には花市場があるようで、前々から行きたいと思っていた。さらに数年前に行った活版印刷屋と茶問屋も再訪したい。

その後、阿里山森林鉄道のリサーチをしている時に知ったのだが、台北に鉄道博物館が開設されていた。まだ部分開業らしいが、台湾国鉄の台北工場だった施設を活用しており、かなり良さそうな雰囲気だった。こちらにも行ってみたい。

希望は多いが、具体的なプランについては深く考えないまま、台北に戻ってしまった。台湾新幹線の車内でリサーチをしようと思って座席の広い一等車に乗ったのだが、気付いたら爆睡していた。まったく意味のない出費である。

バーは夜しか営業していないので、まずはウィスキーの飲酒に向かった。ボルドー樽3種類とポートワイン樽1種類を飲んだ。加水調整前のカスクストレングスなので、結構なアルコール摂取量である。

ウィスキーを飲みながら、翌日の予定を考えた。

花市場は早朝の営業らしい。ホテルに戻って仮眠を取り、花市場へ行ってから再びホテルに戻り、更に寝る。それから9時半のオープンと同時に鉄道博物館へ行けば、活版印刷屋と茶問屋に行っても、夕方のフライトには間に合いそうだ。これは「一石二鳥」を越えた理想的な計画である。

そこそこ酔っ払って最終バスに間に合うようバーを出たものの、Google Mapが間違っていた。たまたま最寄りのバス停には接近情報表示器が付いていたのだが、そこには本日の運行は終了と表示されていた。Uberでタクシーを呼ぶのが面倒くさくなり、ホテルまで歩いて戻った。ホテルに着くと1時過ぎだった。

22時にバーへ行く事自体は悪くない。しかし想定される飲酒量を考えると、翌日の計画には無理があった。「言うは易く行うは難し」である。もはや現実を直視せざるを得ない。

このまま寝ないで花市場に行くか、なんとか9時前に起きて鉄道博物館へ行くか。どちらかを選ばないと「二兎を追う者は一兎をも得ず」になる可能性が高い。

どう考えても3時まで起きている気力はないし、そもそも花市場の場所すら把握していないことに気付いた。既に酔っぱらっており、8時半くらいに起きて鉄道博物館に出かけるのが精一杯だろう。

理想だけでは旅はできないのだ。

細部に宿る / 台湾・藍皮解憂号

Taiwan Railway Locomotive

Breezy Blue

Taiwan Railway Passenger Car

Pacific Ocean from Breezy Blue

旅行の醍醐味は、実は計画段階にあると思っている。僕は時間をかけて細かい旅程を作り込んでおり、かなりの労力を費やしている。神は細部に宿るのである。

今年の台湾旅行では、事前に天候の判断がつかず、阿里山トレッキングの計画を諦めたまま旅立つことになってしまった。台中に着いたところ、思いのほか天候予報が良かったので、阿里山計画の復活を試みた。計画の大筋は記憶していたが、ホテルの名前すら忘れてしまっており、トレッキング地図などの資料も家に置いてきてしまった。それでも記憶を呼び起こしながら再計画をしたが、なかなか思考力を要する作業だった。

阿里山森林鉄道のチケットが取れなかったので、阿里山訪問は挫折し、結果的に阿里山森林鉄道の撮影をする事にした。手元のガイドブックには阿里山森林鉄道の乗り方は書いてあるが、その撮影場所までは書かれていなかった。初期段階からのリサーチが必要である。

台中では家族の旅行ガイドをしており、スキマ時間を見付けて予定を立てる必要があった。苦労して調査した後、ようやく阿里山森林鉄道の撮影予定が出来上がった。森林鉄道を撮影した後、嘉義で市場と製糖工場跡地を見る事にしたが、それでも昼過ぎで終わってしまう。

これだけの予定を組んだところ既に深夜であり、嘉義での予定が終わった後、どうするか考える思考力は無くなってしまった。

翌日も旅行ガイド業務があった。そのスキマ時間を諸々の手配に充てることを考えると、僕の時間には更に限りがあった。旅行前にバックアップとして漠然と考えていた計画から、時間的にマッチするものを切り取るしかない。候補となっていたのは、基隆、高雄、台東だった。これだけ地域的に広がりがあれば、どこかしら天候が良いだろうとの選択である。

嘉義から最も近いのは高雄で、時間的には高雄灯台の日没に間に合う。美しい灯台であり、しかも前回の訪問時は曇りだったので、晴れが期待できる日を逃す手はない。

問題は翌日である。高雄で見てみたい場所は、概ね訪問済だった。残るは夜景が凄いらしい寺院だが、そこは灯台に行った後でも十分だろう。美術館やショッピングには大して興味がないので、高雄で一日つぶすのは難しそうだ。

そうなると台東か基隆である。

僕は東京都台東区に住んでいたので、台湾の台東を見てみたいと思っていた。それなので前々から少し調べていたのだが、台東そのものには興味がありそうなスポットはなかった。一方、台東から田舎の方に行くと、美しい田園風景や海岸線がある。ただし台湾東部を公共交通機関で旅するのは、かなり難しそうだった。そもそも日帰りなので、どこへ行きたいかを絞り込む必要がある。そこまでの思考力は既に失われていた。

残るは基隆だが、僕にとってメインになるのは、午前3時くらいから始まる魚市場だった。しかし最南端の都市である高雄で夕陽を見た後で、台中や台北を通り越して、最北端の都市である基隆まで行くだろうか。確かに僕はアホだが、それでもアホらしい行為なのは限られた思考力でも判断ができた。

深夜に考えすぎて思考力を失い、選択肢はなくなってしまった。ここまで来ると、破れかぶれである。「思い付いた」というよりも「思い出した」と言う方が正解なのだろうが、昨年の正月に乗車した藍皮解憂号に乗ることにした。晴れ予報を活かせる唯一のアイデアであり、台湾の催行会社のサイトからギリギリのタミニングで予約できた。

藍皮解憂号の乗車当日は早朝に起きて、まずは地下鉄で左営駅へ向かう計画にした。藍皮解憂号に乗るためには枋寮へ行く必要があるが、そこまで行く快速列車が、地下鉄左営駅と隣接する、台湾国鉄の新左営駅始発なのだ。しかも台北に戻る新幹線も、同じく隣接する高鐵左営駅から乗車である。結局、実質的に全てが同じ駅なので、先回りして新左営駅のロッカーにスーツケースを入れれば、快速列車は始発なので必ず座れるし、身軽な旅もできるだろう。神は細部に宿るのだ。

想定通り新左営駅で快速列車の席は確保できたが、途中の高雄駅からでも十分に座れた。そもそも台湾南部のローカル線の需要は低いのだろう。

そこから先は概ね昨年と同じだった。当たり前である。唯一の違いは、平日だったせいか個人旅行の台湾人が移動手段として使っており、スーツケースは客車の網棚に載せれば良いと分かったくらいである。そもそも列車に乗るのがメインなので、荷物の持ち運びが少ない旅程なのだ。

結果的に、わざわざ早起きして新左営駅まで行って、ロッカーを使う必要はなかった。しかも台湾のロッカーは時間単位で課金されるようで、12時間ほど使ったら結構な額になってしまった。

思考力がない状態で考え過ぎるのは、まさしく考えものである。悪魔も細部に宿るのである。

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