ぱりのおもいで

写真: パリ (イメージ)

羽田を深夜に出発するJALのヨーロッパ便がなくなって以来、ANAのフランクフルト行きに乗ってみたり、JALでエールフランス運航のコードシェア便を取ってみたりと悪戦苦闘したものの、どうも使い勝手が悪い。

結局、以前に使っていたエールフランスに戻ることにした。強引な日程での旅行が多いなか、なかなか考えられた時間にフライトがあって都合がいいのだ。本数も多いし。

エールフランスに乗るとなると、必然的にパリへ行く羽目になる。パリには必然的にフランス人がおり、彼らは必然的にボンジュールと言っている。必然的にシルブプレ。

ロンドンから東京へ黙って帰ればいいものの、せっかくなのでパリで乗り継ぎ9時間。

パリには世界最古のデパートがあり、派手なシャツを売る店があり、僕の人生史上最高のレストランの一つがある。

パリの問題点は、パリにはフランス人が大勢いることであり、彼らは20時位にならないと夕食を食べ始めず、チーズを食べた挙句、デザートまでワインで通す。それからリキュールを一口。夕食の後で23:20発の東京便に乗るようなライフスタイルではない。

シャツもデパートもいいとして、夕食は時間的に無理があり、悩ましい。

ところが情報化時代のおかげである。検索の分野においてGoogleはいい仕事をしており、パリナビにはいい記事が出ている。

お店に問い合わせたところ、19時半の開店と同時にゴングを鳴らし、23:20のエールフランスに間に合ってみようということになった。

Restaurant Salon de thé KOKORO

ちょっと駆け足で、前菜、メイン、デザート、ワイン。

時間があれば、前菜、メイン2皿、デザート2皿ってコースもあり、チーズもつけて、そっちが良かった。今回は乗り継ぎであり、止むを得まい。

次回はゆっくり行きたいものだと思いつつ、21時過ぎにタクシーで空港に向かった。そして余裕で東京行きに乗った。めるしー。

ろんどんのおもいで

ベネチアからオリエント急行でロンドンに向かった。

ブリテン島では基本的にスコットランドを目指すことにしており、乗り継ぎなど以外、あえてロンドンに滞在することはない。今回もオリエント急行に連れて行かれるがまま、なんとなくロンドンに行ってしまったようなところがあり、どうもロンドンは食わず嫌いである。

拒否できないときのみ、止むを得ず。僕の中ではロンドンと生牡蠣は同じポジションである。

どうもロンドンは微妙だと思っていた。物価は高いし、発音できないような地名は多いし、わざわざ行きたいようなレストランもない。

今回のロンドンではビール醸造所に行ってみた。ここ数年、cask conditioned aleという、ハンドポンプで注ぐエール・ビールに興味があり、日本では飲む機会も少ないので、試飲がてら見に行こうかと思ったのである。

Tubeにのってロンドン郊外のFuller’s Breweryへ。テムズ川沿いにあるLondon Prideの醸造会社である。

醸造所の脇に直営のパブがあるが、金曜の午後に行ったせいか、すでに従業員が飲み始めていた。全体的に週末の気分が漂うなか、気のよさそうな爺ちゃんのガイドでツアー。ビールの製造工程はウイスキーの製造工程の前半とほぼ同じなので、たいして発見はない。むしろ興味は試飲場で、ポンプ式のサーバーはどういう構造になっているのか、である。「どうなってるのよ?」と聞いたところ、いろいろ説明してくれて、「じゃ、やってみろ」とのこと。

つまりは、そういうことである。人生、試して分かることも多い。食わず嫌いは良くないと思ったが、それでも生牡蠣はイヤだ。

べねちあのおもいで

ベネチアには何度か行ったことがあるが、路地の段差と部屋の狭さは解決不可能な課題である。ホテルまでの道のりは分かりづらくできており、重いスーツケースを抱えて路地の橋を渡るだけで疲れ果ててしまうし、たどり着いたホテルの部屋は大抵せまい。

そんなこんなで2度目には完全にイヤになってしまい、それ以降はメストレに泊まっている。ベネチア・サンタルチアから国鉄で一駅、約10分。本土側の駅である。ほぼ全ての電車が止まるし、深夜バスも走っている。駅前自体はイタリアの寂れた中小都市そのものであり、風情も何もない。しかし、室料は手頃で、部屋は3倍くらい広い。風情は隣の駅まで行けば味わうことができ、快適さと経済性だけで十分である。

ベネチアといえばゴンドラである。最初に行った時はリラの時代であり、ゴンドラに乗ったものの、多少ボラれているのか、派手にボラれているのか全く分からないスリリングさだった。最近は、それなりに定価のようなものも存在しており、しかもユーロなので感覚的に分かりやすい。しかし、二度とスリリングさを味わおうとは思わず、ゴンドラは見るだけのものと化している。

その昔、旅行前にガイドブックを真面目に読んでいた頃、立ち席ゴンドラというのを知った。渡河のための公共交通機関的なゴンドラで、大運河沿いの水上バスの乗り場がないようなところに、いくつかある。らしい。

そんな話はすっかり忘れたまま年は過ぎ、オッサンは道に迷った。やや絶望しつつも歩いていると、道の先に人が佇んでいた。

そこには小さな桟橋のようなものがあり、イタリア語で何やらと看板が立っている。そして立ち席ゴンドラの話を思い出した (後にTwitterで教えてもらったところによると、トラゲットというらしい)。

ちょっと待っていると、対岸からゴンドラがやってきた。座っている客もいるが、たしかに立ち席である。どこに行くかは分からないものの、すでに道に迷っており、そうであるならば乗るべきだろう。

なんとなく列に並び、前のオッサンを参考にしつつ2ユーロわたし、ゴンドラの上に立つ。横幅の狭いゴンドラなので、縦列に前を向いて並ぶことになるが、そうすると前のオッサンの背中しか見えない。景色を楽しむべく、あえて横向きに立ってみるが、どうにも安定しない。安定しないとゴンドラから落ちる危険があり、ゴンドラが揺れて他の客まで巻き添えにしてしまう。

大運河を1分ほどで横切った。運河とはいえ、交通も多く、よく揺れる。つり革も手すりもなく、揺られるがまま耐える。無事に渡りきると、ちょっとベネチアンなオッサンになった気がした。

Osteria alle Testiere