すかゆのおもいで

僕は年末年始に積極的に働いて、まとめて1月下旬に代休を取ることにしている。そうは言っても、今どき外国に弾丸旅行できる筈もなく、どうしたものかと思っていた。一方で消極的労働に徹すると、今シーズンは12/31からの5連休になりそうな塩梅だった。さすがに家でゴロゴロしているには長すぎる。

東北の温泉に行くベストシーズンは冬だと思っており、昨年は黄金崎不老ふ死温泉へ行き、幸運にも夕陽の沈む日本海の絶景を楽しめた。次は酸ヶ湯温泉に行ってみたいと思っていた。

11月末になって年末年始予定のアテをつけ、旅行先の検討を始めた。どうせ酸ヶ湯温泉は満室だと思っていたが、たまたまチェックしたタイミングで、1月2日から2泊の日程で1部屋だけ空きがあった。しかも腰痛オッサンに最適なベットの部屋である。

これは行くしかないだろう。往復の新幹線も発売開始日に予約が取れた。

しかし12月中旬になると、1月4日に仕事があることが判明した。出勤する必要はなく、PCさえあれば何処でも仕事ができるが、さすがに新幹線乗車中に仕事をする気にはならない。青森の山奥まで行っても1泊しかできないが、それでも行くべきだろうか? そもそも世間的に1月3日は帰省からの戻りのピークである。帰ってこられるのだろうか?

悩みつつJR東日本サイトで調べると、奇跡的に1月3日の上り新幹線に1本だけ空席があった。ちょうど増発が決まった直後だったようだ。早々に宿と新幹線の予約を変更した。これだけタイミングよく物事が決まることも珍しい。やはり行くこと決定。

青森駅からは宿の送迎バスがあるのだが、行きは新青森駅からのJR路線バスに乗ることにした。1時間くらい早めに着いて、ブラブラできる。

このバスが素晴らしかった。観光バス仕様の車両でゆっくりできるし、景色のいいところで、少し減速もしてくれる。

酸ヶ湯温泉は千人風呂という大浴場が有名なせいか、混んでいるイメージしかない。宿が満室だったので覚悟して行ったが、COVID-19時代で宿泊者数を制限しているのか、温泉の利用者は少なめ。そもそも「江戸八百八町」と同じようなもので、「千人風呂」といっても「大きい」という意味なのだろう。

深夜、たまに屋根から雪が落ちる音を聞きながら、ほぼ無人の大浴場につかっていると、実に良い。そのまま一晩中、入っていたい気分である。大浴場には神棚があって、全裸で初詣。

奇跡的なタイミングを活かし、素晴らしい新年になった。

旅のしおり:酸ヶ湯

単純往復。記載の時刻は訪問時のダイヤです。

1日目

東京 0936 (はやぶさ13) >> 新青森 1234
新青森 1245 (JRバス) >> 酸ヶ湯 1405

宿泊:酸ヶ湯温泉

2日目

酸ヶ湯 0850 (送迎バス)>> 青森駅 0950
青森 1039 (JR) >> 新青森 1044
新青森 1104 (はやぶさ306) >> 大宮 1348
大宮 (JR) >> 横浜

さんいんのおもいで

昨秋にはCOVID-19の流行が一段落つき、国内移動が増えてきた。観光地も週末を中心に混み始め、人混みの苦手な僕は穴場を探して旅に出る必要がある。

イメージ的に穴場は北海道や東北に多くありそうだが、11月は雪景色には早すぎる。寒い場所へは冬に行くのが良いと思っているので、別の地域で穴場を見つけるしかない。

そもそも穴場と言うのは、自分は知っているのに、一般的には知られていないスポットのことだろう。僕が知らない地域だと、穴場か否かの区別がつかない。僕が知らないことは世間も知らないと思い込むか、もしくは人出の少なさに着目するかして、そのエリア全体を穴場だと捉えるしかない。

僕にとって、西日本の日本海側は全く馴染みがない。福井あたりから怪しくなるが、それでも兵庫までは何となく分かる。しかし鳥取と島根は位置関係すら分からない。こうなったら山陰地方全体を穴場と考えても良いのではないだろうか。

これを機会に山陰へ行ってみることにした。穴場だと思ったのが正解なのか、特典航空券の空席は取りやすかった。往路はJALの出雲便を予約。

帰りは少し悩ましい。米子空港は出雲市から近すぎ、萩・石見空港は不便すぎる。山陰からは外れてしまうが、太平洋側に出て宇部空港を利用することにした。宇部からはANA (スターフライヤー運航) に空席があり、島根から山口に向かう旅となった。

山陰の温泉地と言うと、玉造温泉が王道なのだろう。いくら山陰地方を穴場だと思ったとしても、玉造温泉を穴場と呼ぶには無理がある。しばらく探してみたところ、出雲市の西に「温泉津温泉」を見つけ、山口県・長門市の西に「油谷湾温泉」を見つけた。これらは穴場に違いない。

温泉津温泉と油谷湾温泉の間は山陰本線で移動。簡単に考えていたのだが、移動時間が異様に長くなった。山陰本線には特急が運行されているのだが、タイミングの良い特急列車はない。穴場の温泉地に行くせいか、うまく特急を利用できないのである。結果的に全て各駅停車で、約5時間の長旅になってしまう。もうオッサンなのだが、腰は大丈夫だろうか。

まずは朝一番のJALに乗って出雲市に向かった。出雲空港から直行バス出雲大社へ向かう。出雲大社に脇目もふらず向かう独身オッサンと聞くと、ちょっと切羽つまりすぎというか、鬼気せまるものがあるが、そんなわけではない。出雲大社は山陰のメジャーな観光地である。バスも老若男女とりまぜて満員だったし。

早々に出雲大社へ向かった理由は、出雲大社のバスターミナルから別のバスに乗り、日御碕神社に行きたかったからだ。日に数本しかバスがない、穴場の神社である。日の沈む地の神様とのこと。自称ハードボイルド系の僕には似合うと思う。

2日目は普通列車の移動でつぶれたが、のんびりと日本海を眺めつつ、西に向かう。途中で適度に乗り換えがあり、思いのほか楽である。列車3本に乗ったが、1本だけが小型車両2両編成で、あとは国鉄仕様の普通車両1両での運行。いずれにしても混んでいない。やっぱり穴場だ。

最終日は山口県で一日を過ごす。日本海側の観光地だと、長門市からは東に戻る形になるが、萩が有名だろう。もしくは山陰本線で更に西へ向かい、下関を経由して、ぐるっと宇部まで行ってもいい。

天気が良かったので、秋吉台秋芳洞に行く事にした。ちょうど秋吉台は草紅葉の時期である。有名な観光地だが、せっかくなので行ってみたい。

観光ついでの散歩のつもりが、かなりのトレッキングになってしまった。しかし美しい秋の一日を過ごせた。月曜日だったせいもあり、秋芳洞も人出が少なく、ゆっくりと見物して撮影。

リサーチによって玉造温泉はパスしたが、結局、出雲大社といい、秋吉台・秋芳洞といい、有名観光地は外せない。それでも行程全体としては人混みを回避し、ゆっくりと旅ができた。

やっぱり山陰地方は穴場ではないだろうか。

しまんとのおもいで

一昨年、愛媛県に行った。松山から宇和島に向かったのだが、宇和島の「ほづみ亭」という大衆割烹店が素晴らしかった。その後も宇和島名物じゃこ天を取り寄せたり、テレビで宇和島を見ると興奮したり、宇和島が頭から離れない。

帰りは古い街を訪ねながら宇和島から松山に戻ったので、旅は愛媛県内で完結した。愛媛県は満喫できたが、隣の高知県は未知の領域である。

高知といえば、鯨のように酒を飲む地である。そういう殿様がいたのだ。たぶん。その殿様については全く見識がないが、良い所に違いない。隣の芝生は青く見えがちなのが、人間である。

二度目の宇和島は、高知県から北上してみようと思った。

まずは高知往復の特典航空券をゲット。宇和島で一泊は確定だが、ちょうどカツオのシーズンだった。宇和島で鯛めし、高知でカツオのたたき。かなり強力な組み合わせになるだろう。高知県内で良さげな宿を探してみたい。

高知でカツオといっても、高知市内に泊まるのは味気なさそうだ。高知市から西に向かって地図を見ていくと、中土佐町、四万十町、黒潮町などワクワクしそうな地名が並んでいる。中土佐町に土佐久礼という漁師町があって、古い市場があるらしい。しかも「黒潮本陣」という、太平洋を望む温泉宿があった。

朝一番の飛行機で高知空港に着き、高知駅から特急で窪川へ。行きは予土線のトロッコ列車に乗って宇和島に向かう。のどかなローカル線の旅だ。こういう列車にありがちだが、自分の席が逆光側になり、景色もイマイチな気がする。隣の芝生は青く見えがちなのが、人間である。

宇和島に着き、満を持して「ほづみ亭」へ。素晴らしい店で、素晴らしい郷土料理を食べ、素晴らしく酒を飲み、素晴らしく酔った。

高知への戻りは宇和島から宿毛に抜けるバスに乗った。普通の路線バスなのだが、所要時間は2時間ほど。山道をトロトロと走っていたら、宇和海に出た。穏やかな漁村が広がる景色である。

宿毛からは鉄道で土佐久礼に向かうのだが、天気が良かったので、途中の中村で降りて、観光タクシーに乗った。四万十川の沈下橋をまわってくれるルートである。1時間半の行程のところ、のんびり撮影していたら1時間50分ほど。すまん。

中村から特急に乗って土佐久礼へ。ちょっと街を散歩し、温泉宿に向かった。カツオがうまい。

最終日は天気が悪かったので、早目に高知へ戻った。高知城に登って山内容堂に関する見識を深めた後、高知といえば「ひろめ市場」である。愛媛の下灘駅を絶賛していたオッサンが、大絶賛していたのだ。カツオとビールのつもりが、練り物と日本酒も加わり、あれやこれやで完全な昼酒になった。

宇和島も素晴らしいが、高知も何だか素晴らしい。隣の芝生も本当に青かった。