もるでぃぶのおもいで

COVID-19以前から頻繁だった東南アジア訪問が2022年末で一段落することになり、最後に派手な旅行をしようと思った。

しばらく前に行ったカンボジアシェムリアップのように、COVID-19の影響による旅行客の少なさがメリットとなる場所を探すことにした。いわゆる観光地らしい観光地がいいだろう。

そこでオッサンには似合わないモルディブである。海に潜って熱帯魚を見たり、ビーチに座ってサンセットを見ながらカクテルを飲んだり、せっかくなので大人のリゾートで背伸びをしてみよう。

たしかにホテルは取りやすかった。4ヶ月くらい前から探し始めたが、乾季でクリスマス休暇シーズンにも関わらず、部屋の種類や日程は選びたい放題だった。しかし料金は高い (それでも安いのかもしれないが、上を見ればキリがない)。結局、背伸びは控え目にして、ギリギリ身の丈にあいそうな値段から3か所に絞り込み、あとは写真と地図から消去法で選んだ。

そして航空券も高い (それでも安いのかもしれないが、フライト時間を考えると高すぎた)。日本から東南アジア経由での接続を考えると、バンコク経由のBangkok Airwaysか、シンガポール経由のシンガポール航空が毎日各1往復しかなかった。結局、JALマイルが貯まり、身の丈にあいそうな値段のBangkok Airwaysにした。シンガポール航空が異様に高かったのだ。

実際に行ってみたところ、モルディブの空港ではAirAsiaなども見かけたので、選択肢の少なさは、予約したタイミングの問題だったのかもしれない。選択肢が増えれば、市場競争によって航空券が値下がりしていた可能性がある。安い物を買ったつもりが、高い物を掴んでいたのではないか。

背伸びをするというのは日常とは異なる消費行動であり、オッサンになってもハードルが高いようだ。

モルディブといえば、オールインクルーシブでイスラム教の国である。オールインクルーシブとイスラム教に関係はないが、背伸びをしているオッサンとしては、消費行動の前提として頭に入れて検討すべき事柄である。

すなわち、モルディブはイスラム教国なので、ライセンスのあるホテルでしか酒が飲めず、値段も高い。事前に調べた限りでは、ビール1本が10米ドル程度らしい。

それだけ酒の単価が高いのであれば、オールインクルーシブにして酒を浴びるように飲むという選択肢もあるが、当然、オールインクルーシブにも相応の価格が設定されている。ホテル選択の時点で背伸びは控え目にしたのに、オールインクルーシブにしたら身の丈にあわなくなるリスクが高い

冷静に損益分岐点を考えた時、赤道直下の南の島で高級ワインをガブガブ飲むとは仮定し得ない。暑くて湿度が高い場所であれば、ビールとジントニックあたりが関の山だろう。ゆえにオールインクルーシブ相当額を飲酒によって回収できるとは思えなかった。

そこで次善の策としてビールを持ち込むことを考えた。丁度お歳暮を頂いたばかりで、自宅のビール貯蔵スペースが満杯になっていた。そこから10本持っていけば、それだけで1万円以上になる。スーツケースにビールを満載して行こう。

我ながら良いアイデアだと思い、荷造りまでした。出発前日の夜である。それでも念の為にモルディブの税関規則を調べたところ、酒類は持ち込み禁止とのこと。しかも入国時に荷物のX線検査があるらしい。これでは入国時に没収されるか、密輸者になってしまう。

やっぱり背伸びをするというのは、オッサンになってもハードルが高いようである。

結局、何も対策しないのが最上の対策ということになり、空に近いスーツケースを持って、モルディブに到着した。ここまでくれば、あとの問題はクレジットカードに解決してもらうしかない。

モルディブ到着の翌朝、ホテルでシュノーケルを借り、熱帯魚を見るべく海に入った。いい年こいて海辺で戯れる。ダイビング体験までしようと思うと相当な背伸びが必要だが、この程度の背伸びであれば何とかなる。西向きのビーチにはバーがあり、午後の遅い時間は燃えるような夕焼けを見ながら飲酒。なんだか素晴らしい。

夢のような数日を過ごし、モルディブ出国前夜、ふと現実に戻って気付くと、赤カブのように真っ赤なオッサンになっていた。

背中が焼けるくらいは想定していたが、首も腹も赤くなっている。最悪なのは太ももで、しばらく座った後で立ち上がると痛いし、うまく力が入らないようでフラフラする。短パンの裾が焼けた肌に触れると痛みが走る。ちょっと前までは熱帯魚と一緒に泳いで楽しんでいたのに、いまやトイレに行くのも困難になっている。

部屋にあったアメニティの保湿クリームを全身に塗りまくり、さらに濡れタオルを足に巻いてみたものの、どちらも即効性はない。このままでは帰りの飛行機から降りられないリスクがある。ネットで対処方法を調べたが、ここまで悪化した症状の記載はない。深夜になって日本の薬剤師の友人に泣きをいれたところ、鎮痛剤に消炎効果があるとのこと。

幸いなことにロキソニンを持ってきていた。ホテルからの出発時、そして空港での搭乗時と降機時に効果が発揮できるように調整して服薬。たしかに鎮痛消炎効果があり、フラフラせずに立ち上がれるし、それなりの速度で歩行も可能である。あやうく航空会社に車椅子をリクエストするところだったが、助かった。

海辺で戯れるとか、熱帯魚と泳ぐとか、そもそも水着を着るとか、オッサンなのに背伸びをしたら、このザマである。

今後は身の丈をわきまえた旅をしよう。

見苦しい参考写真:日焼けから数日後の足の様子

モルディブで見た夕焼けは人生最高だったと言っても過言ではないが、その夕焼けにも増して尋常ではない赤さ、しかも腫れている。モルディブ脱出後もロキソニンと保湿クリームで誤魔化していたが、さっさと病院に行くレベルだったらしい。顔だけは日焼け止めを塗っていたので、服を着ていれば一見なんという事はないオッサンだったのだが。人は見た目で判断してはいけないが、日焼けは見た目の通りに判断すべきだった。

ごしょがけのおもいで

昨年は正月休みに酸ヶ湯へ行ったが、これは僕としては特殊なケースだった。基本的には、混雑する正月は家から出ず、1月2週目以降の空いたタイミングで代休を取って旅に出るのが良いと思っている。

2年前に秋田県の後生掛温泉へ行った際、地元の八幡平ビジターセンターがスノートレッキングのツアーをやっていることを知った。後生掛温泉の周囲には泥火山があって、夏の間は遊歩道から見学できる。かなり神秘的な風景なので、冬に見たら素晴らしいだろう。旅行には前のめりになりがちなので、1年後の冬に行こうと思っていたのだが、後生掛温泉の大浴場が工事と聞いて断念していた。

そのまま更に1年ほど前のめりな姿勢を維持して、昨年10月に予約の問い合わせを始めた。初心者向きの2時間コース、絶景満喫の3時間コースがあるらしいのだが、スノーシューを履いたことがないにも関わらず、3時間コースを選択。スノーシューからウェアまでレンタルをお願いできるので、かなり手軽に楽しめるようだ。

当然のように冬休み期間は外し、たいして悩むまでもなく1月中旬に日程を決定。温泉の予約は問題なかったのだが、スノートレッキングの方は、どうやら受付開始前にも関わらず、予約依頼メールを出してしまったようだ。1年半以上も待ったせいか、かなり前のめり過ぎる。過ぎたるは及ばざるが如し、という言葉が頭をよぎる。大丈夫だろうか。

行きは羽田から大館能代空港、大館から後生掛温泉に向かって2泊。帰りは大館の近くの鷹ノ巣から秋田内陸縦貫線に乗って角館に出て、秋田新幹線で帰る行程にした。

写真メインの旅の難しさは天気である。本来であれば、現地滞在時間を多めにとって、何度か撮影のチャンスを得たい。ただし後生掛温泉の送迎を利用すると、移動日にはトレッキング参加ができない。温泉に2泊して、中日にトレッキング参加ということになる。いくら僕が前のめりでも、天候まではコントロールできない。あとは運を天に任せるのみである。

結果的には、トレッキング前日午後が晴れ、トレッキング翌日の午前も晴れ、それにもかかわらず肝心の当日は降雪だった。冬景色は曇りでも満足できるが、雪が舞うと写真に映り込んでしまうので、ちょっと悩ましい。

安全対策という意味合いもあると思うが、当日は地元の方2名にガイドして頂いた。僕は体が異様に硬い中年男であり、安心でき、ありがたいことである。準備体操をして出発。新雪が気持ちいい。

初めてのスノーシューだったが、アイゼンが効くし、慣れると歩きやすい。坂を登ったり、坂で滑ったり。極めて楽しい。そして景色は絶景である。夏の遊歩道とは異なるルートを歩くことができるのが素晴らしい。

写真の方は、やっぱり雪が写り込んで視界が悪かった。モノゴトに前向きでも結果が伴うとは限らないのは、人生も旅行も同じである。

諦めが悪いのが取り柄でもあるので、このまま前傾姿勢を維持して、来年もう一回トライしてみよう。

旅の記録:後生掛温泉

記載の時刻等は訪問時のダイヤです。

1日目

羽田 0855 (ANA 719) >> 大館能代 1005

大館能代空港 (空港バス) 1020 >> 長倉町 1124

・ランチ:秋田比内や

大館駅前 1255 (バスみちのく号) >> 鹿角花輪 1353

鹿角花輪 1435 (送迎バス) >> 後生掛温泉 1520

宿泊:後生掛温泉

1日目Tips
・秋田比内やで比内鶏親子丼のランチ。ついついビール。おかみさんが素晴らしい。
・昨年の大雨の影響で、JR花輪線が大館〜鹿角花輪で不通。この区間は高速バスを利用した。

2日目

スノーシュー3時間コース

2日目Tips
・数年おきに後生掛温泉に行っているが、毎回、必ず何かが進化している。リピーターを飽きさせない工夫と言うか、収益を確保する工夫と言うか。なかなかスゴイ努力ではないだろうか。言うは易く行うは・・・という所だと思うのだ。

3日目

後生掛温泉 0930 (送迎バス) >> 鹿角花輪 1020

鹿角花輪 1032 (秋北バス) >> 大館駅 1203

秋田犬の里
・ランチ:花善

大館 1357 (つがる4 自由席) >> 鷹巣 1414
鷹巣 1438 (秋田内陸縦貫鉄道・急行) >> 角館 1635

・夜の角館武家屋敷

角館 1901 (こまち46) >> 大宮 2139

3日目Tips
・鹿角花輪から大館までの戻りは一般路線バスを利用してみた。集落を抜け、地域の大病院は全て回り、時間はかかるが面白い。
・大館駅の「鶏めし」という駅弁が大好きなのだが、その駅弁屋さんがレストランをやっている。いつもは弁当なので冷たいのだが、できたての鶏めしが暖かくて感動。お米も柔らかい。
・鷹巣からの秋田内陸線は進行方向右側に座りたかったので、大館からJR特急でワープ。阿仁川の雪景色を眺めながらワンカップ。たまりませんな。

ぺなんのおもいで

約3年前のCOVID-19発生時、諸々の手配が終了していた旅行先の一つがマレーシアのペナンである。ペナンには、シンガポールのラッフルズホテルを建てたサーキーズ兄弟が手掛けた、Eastern & Oriental Hotelがある。そこの改装工事が終わったと聞いていたので、ちょっと行ってみようと思ったのだ。

ペナンは1~3月あたりが乾季なので、2020年2月末の予定で旅行を仕込んでおいた。しかし、その頃には非公式ながら勤務先から海外渡航自粛の要請が出ていたし、各国の入国制限が始まるかどうかというタイミングで、需要減に対応してフライトも徐々にキャンセルされ始めていた。

勤務先を欺いた上で、かなりスケジュール的に無理をすれば行けたと思うのだが、雇用を維持したいサラリーマンの弾丸旅行としてはリスクが高すぎてキャンセルした。会社を適当にサボるくらいでは傷まない良心をしているが、当時は全てが不透明すぎた。金融工学には詳しくないが、ヘッジできないリスクは回避するに限る。

この時はシンガポールからAirAsiaでペナンに行き、シンガポール航空で戻る予定だった。結果的には往復とも欠航。無理をしてまでペナンに行く気はなくなっていたので、シンガポール航空は再予約をせずに返金を依頼。しかしAirAsiaは運賃に充当可能なクレジットしか戻してくれなかった。

不透明な情勢の中、日本の国内線を運航していないAirAsiaのクレジットを持ってもどうかなと思っていたのだが、クレジットは何度も使用期限が延長され、ひとまず2022年末まで有効のようだった。昨年秋の時点でアセアン域内の旅行規制は大幅に緩和されており、2023年以降のクレジット再延長があるか分からないし、もっと分からないのがCOVID-19の流行状況である。

遊べる時に遊んでおくというのが人生唯一のストラテジーなので、早々に残存クレジットを使うべく、昨年の海外旅行復活後に再びペナン行きを仕込んだ。5月~10月がペナンの雨季だが、特に8月下旬~10月に雨が多いらしい。ギリギリという所で8月上旬に予定を入れた。この時のペナンまでの往路はAirAsia、シンガポールへの復路はScootで予約を入れた。ちなみに2020年当時、何件も航空券をキャンセルしたが、現金で返金のあったLCCはScootだけである。返金の恩は搭乗で返したい。

しかし昨年7月末には僕自身がCOVID-19に感染してしまった。指折り数えると、タイミングとしては出発前日までに完治している (というよりも、日数的に完治したと見なされる) 筈だった。そうは言うものの、マレーシア入国前7日以内に風邪症状があったかとか (その時点で咳が少し残っていた)、日本帰国前14日以内にCOVID-19患者と接触があったかとか (当該期間中に患者本人だった)、各国の検疫上の質問にはマトモに答えられそうにない状況である。

この時点での旅行規制緩和は例外的な措置であり、政策の根本として疑わしきは隔離だろうから、雇用を維持したいサラリーマンの弾丸旅行としてはリスクが高すぎ、旅行をキャンセルすることにした。会社を適当にサボるくらいでは傷まない良心を持ってはいるものの、バカ正直に問い合わせるには野暮すぎるし、問い合わせずに日本を出国するには不透明すぎた。金融工学には詳しくないが、ヘッジできないリスクは回避するに限る。

この時はAirAsiaがフレキシブルな予約期間としていたようである。同社にしては珍しいと思うのだが、一番安いチケットを自己都合でキャンセルしたにも関わらず、またまた運賃に充当可能なクレジットが戻ってきた。

本格的に寝込んでいた最初の3日間を除くと、僕のCOVID-19感染期間中は概ねヒマだった。特に療養期間後半は時間を持て余しており、全ての予約をキャンセルした後、AirAsiaのクレジットを利用して、改めてペナン旅行を手配することにした。ここまで来ると、手段が目的化してしまう、ありがちなパターンである。

そこで雨季が終わったと思われる11月上旬に予約を取り直した。同じ計画を2回も焼き直しても面白くないので、Eastern & Oriental Hotelの他に、ブルーマンションという19世紀の豪邸だった建物にも1泊することにした。今回もAirAsiaでペナンに行き、シンガポールまでの復路はScootで予約を入れた。

こんなグダグダを3度目の正直と言って良いのかは不明であるが、11月には予定通りペナンに行くことができた。Eastern & Oriental Hotelとブルーマンションは満喫できたが、残念ながら雨季は終わっておらず、天気は概ね悪かった。

2度目のキャンセルの後、手段が目的化してしまい、AirAsiaに乗ってペナンに行くこと自体が旅の目的になってしまったのである。目的を達した以上、滞在中の天気は妥協せざるを得ないが、もうちょっと街歩きが出来れば良かった。

あれから3年が経ってCOVID-19情勢の不透明さは概ね消失し、良心の強靭さ、もしくは金融工学の知見に関わらず、リスクはヘッジできるようになった。綿密な計画さえあれば、サラリーマンの弾丸旅行も雇用維持のリスクなく行ける。

そして、もう一度、ペナンに行ってみたいと思う。次回は旅行に行くこと自体を目的化せず、計画的に好天を狙って乾季に訪問したい。その時はクレジットに縛られず、AirAsiaを計画的に利用しよう。