くしろのおもいで

昨年もGo To Travelの焼き直しのような全国旅行支援が行なわれた。遊びに行くのに、間接的ながらも政府がお金をくれるという奇跡的な政策である。後ろ暗さがない限り、うまい話には乗っておくに限る。

宇和島にある「ほづみ亭」に行って鯛めしでも食べようと思い、11月に旅行計画を仕込んだものの、これでも僕はサラリーマンだった。運が悪いことに「オフィスに存在していること自体が仕事」というタイミングにあたってしまい、不条理な浮世の事情により中止。

不条理を嘆いていると、旅行支援の延長が決まった。我慢しきれず、年末に釧路へ行くことにした。冬の釧路湿原を見てみたかったのだ。そして釧路からJR釧網線で川湯温泉に行って1泊、更に網走まで北上した後、今春に引退が予定されている特急車両に乗って札幌に向かう意欲的な計画である。

地元で常連になっているレストランが、釧路の居酒屋さんを紹介してくれたこともあり、最近は年1回くらいのペースで釧路に行っている。出発前日には日本海からオホーツク海にかけて爆弾低気圧が発生し、北海道は大雪だったらしい。居酒屋のマスターに聞いたところ、釧路は雨と雪でピシャピシャとのことだった。そもそも釧路は降雪が少ないらしい。一方、JR北海道のサイトによると、除雪作業が難航して網走〜札幌の特急は運休になりそうな気配である。

引退する特急車両は諦め、川湯温泉から釧路に戻って、別の特急で札幌に向かうことにした。出発前夜に諸々の変更を手配し、用心のため、濡れても水が浸透しないゴアテックスのスニーカーを履いて釧路に旅立った。

これが失敗だった。

この靴は数年前に長靴の代用として買ったのだが、どうも靴底の水はけが悪いらしく、路面によっては雨の日に極めてよく滑る。表面がツルツルのタイルが最悪なのだが、無駄にオシャレな自宅マンション入口で滑って転倒したこともある。

自宅を出る時には全く考慮の外だったのだが、ピシャピシャは温度が下がると、ツルツルに凍るのである。ツルツルのタイルでも滑るような靴が、ツルツルの氷でどうなるかは推して知るべしだった。

釧路湿原には前日までの雪が残っていて問題なかったが、やはり釧路市内の路面は凍結していた。しかも日中でも気温が氷点下なので、ずっとツルツルである。かなり歩行に難儀し、何度も転びそうになった後、川湯温泉に向かう。しかし倒木の影響で、JR釧網線は運休になってしまった。釧路の全てが不条理だ。

せっかく北海道まで来たのに、このままビジネスホテルに延泊は味気ない。それに積雪のない釧路で1泊追加すると、ツルツル滑って転ぶリスクが蓄積される。一方、靴が危険という理由だけで、飛行機を早めて自宅に帰るのも馬鹿らしい。どれも不条理である。

釧路駅前で不条理に悪態をつきながらも、なんとか代替の温泉宿を見付けられた。

濡れてもいいように耐水素材の靴を買ったのに、水はけが悪くて転ぶのは不条理すぎる。いい加減、ダメな靴に見切りをつける頃合いだと、北海道の神様からの警告を兼ねた試練だろう。

不条理によって釧路に行ったが、釧路に着いても不条理からは逃れられない。自宅に戻ったら靴を買い直して、次回の釧路冬旅に備えようと思った。

旅のしおり:釧路

記載の時刻等は訪問時のダイヤです。

1日目

羽田 1135 (ANA741) >> 釧路 1310

・空港から釧路湿原 (温根内ビジターセンター)

宿泊:釧路プリンスホテル

夕食:酒房千葉

1日目Tips
・前日の予報では、この日だけが奇跡的に晴れ予報。しばし悩んだ末、観光タクシーを依頼して、空港〜釧路湿原〜釧路市内と移動。しかし結果的には曇り空。うーむ。

2日目

釧路駅 0855 (阿寒バス) >> 温根内 0940

・釧路湿原 (温根内ビジターセンター)

温根内 1218 (阿寒バス) >> 釧路駅 1310

釧路駅 1450 (阿寒バス) >> 阿寒湖温泉 1650

宿泊:ラビスタ阿寒川

2日目Tips
・諦めきれず、午前中に路線バスで再び釧路湿原へ。バスの本数は少ないが、現地滞在に2時間半くらい取れるスケジュール。しっかり散歩して、やや時間が余る程度。温根内ビジターセンターの室内で時間を潰せるスペースが有り、バスの待合に利用できる。かなり快適。
・JR運休の影響で川湯温泉に行けなくなってしまった。必死に探したところ、前々から気になっていた阿寒湖温泉のホテルに1室だけ空室があった。
・釧路から阿寒湖までは時刻表で2時間だったが、雪の影響で2時間半ほど。普通の路線バス車両であり、長時間乗車は足腰に厳しい。

3日目

阿寒湖温泉 1020 (阿寒バス) >> 釧路駅 1220
釧路 1342 (おおぞら8) >> 南千歳 1729
南千歳 1735 (JR) >> 新千歳空港 1739

新千歳 2120 (ANA084) >> 羽田 2300

3日目Tips
・阿寒湖温泉からの戻りバスは混んでいた。この日の朝は観光バス仕様の車両が配車されたので、座って釧路駅前まで戻れた。阿寒バスすばらしい。

しぇむりあっぷのおもいで

カンボジアの観光地といえば、やっぱりアンコール・ワットだろう。

アンコール・ワットの周囲には他の遺跡も広がっており、観光エリアとしては広いという話は聞いていた。こういう場所こそガイドブックを購入して綿密に作戦を立てるべきなのだろうが、COVID-19の影響でガイドブックの類は数年間ほとんど更新されていないらしい。わざわざ買わなくても、何とかなるだろう。と思う。

今回の旅ではネット記事を斜め読みして、行ってみたい遺跡をピックアップ、それをGoogle Mapに入れ込んでスケジュール作成してみた。そして出来上がったスケジュールをホテルに送って、ドライバーを手配してもらうことにした。

カンボジアに行ったことがないどころか、ガイドブックすら読み込んでいない素人が作った計画である。ホテルの人に何度かダメ出しを受けた後、ようやく2.5日のツアーが出来上がった。ガイドを付けるか聞かれたが、自分のペースで撮影したいのでパス。

シェムリアップ周辺の遺跡は共通チケットでの訪問となる。早々にアンコール・ワットを見ておきたいところだが、初日には行かないことになった。まずは3日券を購入し、最初はタ・プロームに向かった。雨季は終わっているが、移動中にスコールが来た。さっき3日券を購入したばかりだが、大丈夫なのだろうか。

タ・プロームの駐車場で雨と傘売りをやり過ごし、雨上がりの森に入っていく。しばらく行くと遺跡が森と混然一体となっていた。遺跡も素晴らしいが、それ以上に生命の力強さ、時間の偉大さに心を揺さぶられる。ガイドがいて説明を受ければ理解は深まるのだろうが、そんな理屈抜きで、ものすごい場所である。思いつくまま、遺跡内をウロウロと歩き回った。

翌日は4時前に起きてアンコール・ワットへ向かった。事前に調べたところ、正面に向かって左側の池が良いらしい。しかし雨季の影響でぬかるんでおり、しかも養生ネットが張られていた。

どうすればいいのだろうか。

左側がダメなら右側だろう。しかし真っ暗なので、どこから撮影すればいいのか分からない。ガイドを頼まなかった弊害である。

すこし明るくなって、どこが撮影スポットか分かった。なんとか場所を確保して撮影。荘厳な夜明けを満喫できた。この日のアンコール・ワットは早朝の撮影のみで終了。駐車場でドライバーと落ちあって朝食、その後は別の遺跡を訪問した。

そして3日目も早朝に起きてアンコール・ワットへ向かった。ホテルの人には2回も行かなくていいから寝ていろと勧められたのだが、撮影メインの旅である。そんな妥協は出来ない。

前日に目を付けておいた場所を確保した。ガイドがいない分は、数をこなせば何とかなる。この日は雲が少しあり、朝焼けを楽しむことができた。

スケジュールの関係でアンコール・ワット自体は3日目の最終日に見ることになっていた。アンコール・ワットでは第三回廊と呼ばれる上層が見所らしいのだが、この日は仏日ということで入れなかった。

いやはや。前日も夜明けの撮影には来ており、その後は観光前に朝食を食べている。どう考えても上層階に上がるくらいの時間は捻出できた。リサーチ不足による痛恨のミスである。繰り返しになるが、3日目は最終日である。次回、アンコール・ワットに来るのは何年後だろうか。

決定的なミスを犯したのは、ガイドブック代をケチったのに、ガイドを雇わなかったせいだろう。中層階で呆然としていると、徒然草の「仁和寺にある法師」のくだりが頭をよぎる。

少しのことにも、先達はあらまほしき事なり。

かんぼじあのおもいで

COVID-19によって中断していた東南アジア旅であるが、再開後はシンガポールを起点に、マレーシア、インドネシアあたりを訪問している。ちょっと目先を変えて、シンガポールからは行きにくい場所を訪問してみたいと思った。

あまり行ったことのない、バンコクを起点に考えてみよう。タイといえば、タイ料理が苦手なので苦労している。タイ国内はパスしたい。

しばらくブランクがあったので忘れかけていたが、ラオスのルアンパバーンに行ってみたかった。托鉢の行列が有名な古都である。オバマ元アメリカ大統領が絶賛した街らしいが、オバマ絶賛の地は東南アジアに大量に存在するので、真偽は不明である。この手のマイナー都市はシンガポールから行きにくかったりするので、今回の趣旨にも合致する。

バンコクからは、エアアジアとラオス航空が直行便を運航していた。エアアジアが早朝にバンコクを出るフライト、ラオス航空が午後にバンコク着のフライトで、スケジュール的に丁度いい。

諸々の手配を済ませたが、行きのエアアジアが欠航になってしまった。ラオス航空で取り直しても良かったのだが、それだとルアンパバーン到着が夜になってしまう。もともと短い日程なのだが、現地滞在が更に短くなってしまうので挫折。

改めて別の場所を探すと、カンボジアに行ったことがないと気付いた。アンコール・ワットは世界的な観光地だが、まだ人出が少ないうちに行ってみたい。季節的にも、どうやら雨季は終わっているらしい。しかもシンガポールからは、アンコール・ワットのあるシェムリアップに直行便が運航されていなかったので、当初の条件にも合致する。

バンコク市内からタクシーでドンムアン空港へ。土曜日の朝だったので余裕かと思っていたが、渋滞がひどい。タイがタイであることを忘れていた。チェックイン締め切り時間を僅かに過ぎて荷物を預け、タイ出国。

飛行機が飛び立つ前に寝込んでしまい、目が覚めるとカンボジア領空だった。窓から景色を眺めると、あちこちで洪水している。雨季は終わっているはずだが、大丈夫だろうか。

カンボジアのビザは事前にネット申請しておいたので、シェムリアップ空港に到着後は余裕で入国審査を通過。ホテルのドライバーにピックアップしてもらい、街へ向かう。

先日のビンタン島では調子に乗って高級ホテルに泊まったところ、宿泊自体はリーズナブルだったが、食事やら移動が高級ホテル値段になってしまった。今回は遺跡見学のために移動の手配が多いので、評判のいい中級ホテルを探した。

ホテルに着いて荷物を置き、まずは市場の撮影にOld Marketへ出かけた。そして昼食。

カンボジアでは米ドルが普通に使えると聞いていたので、米ドルの現金を持っていった。数年前のボストン訪問時の使い残しである。円安の時代、実質的には2割安で旅行ができることになる。運が良い。

実際のところ、普通に使えると言うのも微妙に違っていた。僕が持っていったのはアメリカで流通していた紙幣なので、状態はかなり悪い。しかしカンボジアでは少しでも破れていると受け取り拒否のようである。特に高額紙幣はチェックが厳しい。たしかにカンボジアにはアメリカ連邦準備銀行はなく、傷んだドル紙幣をカンボジアの市中銀行で交換してくれるとは思えないので、しょうがないのだが。

結局、持ち込んだ20ドル札は大半が使えず、クレジットカード払いになった。円安を回避できたと思ったのだが、そうは問屋が卸さなかった。

そもそもルアンパバーンに行けなかったオッサンである。そんなに運が良いわけがないのだ。