たけとみじまのおもいで

COVID-19時代になって頻繁に国内旅行へ行くようになったが、沖縄には行けていなかった。移動制限が始まる直前、出張で那覇に行ったのが最後である。

沖縄に興味がないわけではない。しかし僕が沖縄に行きたいと思うタイミングと、沖縄でCOVID-19感染が蔓延するタイミングが重なってしまっていた。離島へ行くことを考えていたので、訪問を躊躇していたのだ。

今年は9月に3連休が2回あった。観光地は混みそうなのでパスしようと思っていたが、自宅でゴロゴロと無為に過ごすのは勿体ない。よくよく考えると、僕自身はCOVID-19に感染して抗体を獲得したばかりで、しばらくは感染リスクが低い。はずである。ゆえに離島で医療を逼迫させるリスクも低い。と思う。通常の感染対策さえしていれば、躊躇しなくても良いのではないか。

正直なところ、僕は安易な方向に流されがちである。前々から興味があった竹富島をチェックすると、3連休にも関わらずホテルに空きがあった。悩む間もなく、ホテルを予約した。

竹富島へのゲートウェイは石垣島である。三連休に石垣島まで、もちろんマイル利用の無料航空券に空席はない。効率的かつ安く行く手段を探してみた。旅行計画が好きなので、こういうのは楽しい。

行きは成田を早朝に出るジェットスターの下地島ゆきに安いチケットがあった。下地島から石垣島に行くフライトはないようだが、下地島は橋で宮古島とつながっており、飛行機のダイヤにあわせてバスが運行されている。宮古島の宮古空港から石垣島までは、琉球エアコミューターのプロペラ機が高頻度で運航されている。そして石垣島からはフェリーで竹富島まで20分ほど。夕方までには竹富島に着けそうである。

ここまでくると初日はアイランドホッピングの様相だが、これはこれで楽しいだろう。

帰りは時間さえあわせられれば、石垣島~那覇経由~羽田の乗継割引を利用できた。那覇で5時間ほど潰さないといけないが、観光するなり、ショッピングするなり、なんとでもなりそうな気がした。

概ね納得のいくスケジュールでチケットが取れた。最後の最後になって那覇〜羽田の特典航空券に空席が出たので復路の航空券を取り直し、あとは沖縄に行くだけである。

たしかに行くだけだったのだが、そこまで単純でもなかった。台東区民だった頃のノリで早朝の成田便を予約したが、それが鬼門だった。

電車の遅延などで下地島までのフライトを棒に振る気にはなれないし、成田空港のLCCは第3ターミナルなので駅から徒歩で時間がかかる。最も早く成田に着くルートを選択せざるを得なかった。こうなると横浜市民となった今は過酷でしかない。

午前3時に起きて、桜木町駅までタクシー。桜木町からは、日本で一番早い初電と言われる京浜東北線4時18分の始発。さらに品川からも日本橋方面の初電に乗車して成田空港へ向かう。飛行機に乗ったときには疲労困憊だった。

おかげで飛行機内では熟睡でき、満席のLCCで狭い座席に不満などを感じる余裕すらなく、気付いた時には下地島空港に向けて降下中だった。下地島からバスで伊良部島を通って宮古島へ。とにかく海が青い。

宮古空港での乗り継ぎに2時間ほど余裕を作っておいたので、バスを途中で降りて宮古島の公設市場あたりを散歩。なんとも蒸し暑い。関東は既に秋の気配であり、夏の暑さは過ぎ去っていた。人間は安易な方向に流されがちなせいか、9月下旬の僕にとっては過酷な気候に感じられる。

公設市場で昼食を食べることにした。沖縄に来たら、沖縄そばを食べるべきだろう。ここは宮古島なので宮古そばと呼ぶらしい。

公設市場には数軒の宮古そば店があった。正面広場に面している店にはビールがあるが、屋外で食べなければならない。一方、屋内の店にビールはなさそうだが、クーラーが効いている。かなり悩ましい。しばらく迷った末、屋内の店にした。

店のオバチャンに声をかけると、やや驚かれる。客は来ないものと諦めていたらしい。ヒマそうだったオバチャンと話し込み、なりゆきで店番もした。この店は「もずくの天ぷら」が売りらしいのだが、この日の商売を早々に諦めたのか、天ぷらの売れ残りを頂いた。ありがとう。

もずく天ぷらを紙袋に入れてもらい、市場からタクシーで宮古空港へ。そこから琉球エアコミューターのプロペラ機に乗るのだが、まずは売店でオリオンビールを購入。もずく天ぷらを片手にビールである。

プロペラ機はフライト時間20分ほどで石垣島に到着。空港からバスでフェリー乗場に向かう。やっとアイランドホッピングも最終区間である。竹富島へは1本遅い船に乗ることにして、港近くの食堂に沖縄そばを食べに行った。石垣島は八重山諸島なので、八重山そばと呼ばれるとの事。そしてオリオンビールの生。

結局、竹富島には16時半頃に到着した。早朝から過酷さだけが印象に残る、長い旅だった。ホテルに荷物を置き、街の探検に出かけた。夕食にも八重山そばを食べ、この日だけで沖縄そば3杯に、島5つ。

竹富島はポスターに出てくるような沖縄の田舎の街並みだった。街歩きは人出の少ない早朝と夕方にして、蒸し暑い日中は昼酒を飲んでゴロゴロしていた。 やっぱり僕は安易な方向に流されがちである。

結局、ゴロゴロしている場所が自宅から沖縄に変わっただけで、やっていることは大差なかった。それでも天気は上々、素晴らしい三連休になった。

びんたんとうのおもいで

今年7月に沢木耕太郎さんの「深夜特急」に出てくる夕陽を求めてシンガポールからマラッカに向かったが、あの本に思い入れがなければ、マラッカはマレーシアの地方都市である。首都クアラルンプールほどの大都市ではなく、のんびりビーチで過ごすような田舎でもない。たしかにマラッカ旧市街はエキゾチックな世界遺産だが、それはそれとして、なんとなく物足りなさが残ってしまう。

せっかくの夏休み、しかもCOVID-19の影響で久々の海外旅行だ。愉快な夏休みを満喫したいと思い、シンガポールからフェリーに乗ってビンタン島に出かけた。シンガポール在住者をターゲットにした、インドネシア領のリゾートアイランドである。

一般的にリゾートアイランドといえば、マリンアクティビティにプールサイドバーが相場だろう。僕は全く興味ないが、エステやゴルフという選択肢もあるし、ビンタン島では銃も撃てるらしい。これが世間でいう「夏休みらしい夏休み」ではないだろうか。

しかし、それでは満足できないのが僕である。ホテルのサイトを見ていると、滞在中のアクティビティとして、マングローブの森へのツアーが紹介されていた。これを機会に東南アジアの大自然にふれるのも良いかもしれない。

他にも何かないかと思いGoogle Mapでビンタン島を丹念に見ていったところ、なかなか美しそうなモスクを2か所も発見した。大自然の次は異文化交流だろうか。

ところで異教徒にとってモスク見学は難しい。僕が行ったことのある場所だと、トルコは自由に出入りできたが、マレーシアでは立ち入り可能エリアが明示されている。中東やモロッコはモスクにすら入れない事が多い。

インドネシアでモスクを見学できるかは分からなかった。ホテルに問い合わせたところ、明確な回答はなかったが、レンタカーの手配はできるらしい。車を借りるとドライバーがついてくる、東南アジア方式のレンタカーである。

どう考えてもモスクとマングローブは「夏休みらしい夏休み」の過ごし方ではないが、一通りの手配を終えてビンタン島へ向かった。

ビンタン島に到着すると、まずは送迎車でホテルに向かった。チェックインだけ済ませてから、マングローブ・ツアー開始。快晴とまではいかないが、それなりに晴れていた。近隣の漁村からボートに乗って川を遡る。村から少し出ただけで、鬱蒼としたマングローブの森である。わざわざ見に行くような物好きは、都会に毒された変わり者だけなのではないだろうか。

気の良さそうな船頭の兄ちゃんと約2時間、マングローブの森に船で入ったり、川辺で動物を探したり。晴れて暑いが、川面の風が涼しくて気持ちいい。ちょうど干潮時だったので、マングローブの根の様子などを観察できてよかった。最後に漁村を回ってツアー終了。他に乗客はおらず、貸し切り状態だった。かなり楽しかった。

翌朝は早めにドライバー付きレンタカーで出発。まずは最初のモスクに到着。現地人のドライバーが連れてくる位なので、モスクに入れないということはないだろうが、どこまで許容されるかは不明である。しかもドライバーはドライバーなので、駐車場で待機している。こうなったら自分で何とかするしかない。

とりあえず靴を脱いでモスクに入った。さっさと写真を撮って退散しようと思っていると、掃除のオッサンが登場。怒られるかなぁと思っていると、オッサンがニコニコして話しかけてくる。とりあえず追い出されることはなさそうなので、こちらもニコニコして話しかける。こういうときに限って、iPhoneの翻訳アプリが機能しないのだが。とりあえずニコニコしていれば友好的なのだろうと判断し、プラプラと内部を歩き回った。

その後、もう一か所のモスクを見に行った。こちらは無人であり、特にニコニコすることもなく、追い出されることもなく終了した。

帰りのフェリーまで時間が余ってしまった。どこかに連れて行ってとドライバーに頼んだところ、 Gurun Pasir Bintanというローカル観光地に連れて行ってくれた。元は鉱山の跡地らしいのだが、砂漠のような景色と青い湖が広がる不思議な場所だった。

リゾートアイランドで夏休みを過ごそうと思ったが、エステやゴルフはおろか、マリンアクティビティもプールサイドバーもなかった。そもそも水着すら持って行かなかったのだが。

それでも大自然と触れ合い、異文化交流と絶景、そしてニコニコ笑って愉快な夏休みだった。

びえいのおもいで

なんとなく不満の残った熊野の旅だったが、なんとなく諦めがつくわけもない。

夏になるとCOVID-19は再び猛威をふるい、Go To Travelの再開は吹き飛んだ。そして感染拡大のせいで、世間では旅行のキャンセルが続出しているとの事だった。そもそも僕自身も感染してしまい、8月上旬の旅行をキャンセルしていた。こうなると熊野の恨めしい思い出がよみがえる。誰かのキャンセル枠を探し出し、熊野の判断ミスを取り返そう。

あの時に行けなかった美瑛・富良野の宿をチェックしていると、たしかにパラパラと空きが出ている。数日おきに何回かチェックしたところ、希望の日程に空きがでた。

美瑛・富良野へのゲートウェイは旭川だが、直前にも関わらず、往路の羽田〜旭川には無料航空券の空席があった。復路も新千歳~羽田の最終便には特典航空券でも空席があり、旭川〜新千歳は鉄道で3時間ほどの移動で済む。これでピークシーズンにあたる8月の週末である。奇跡に近い。しかも出発3日前には復路の旭川〜羽田の最終便に無料航空券の空席が出たので取り直すことができた。

礼文島の時と同じく、北海道の神様が来いと言っているのではないだろうか。そう信じることに決め、あたふたと北海道に向かうことにした。

「策士策に溺れる」を地でいった熊野の反省を生かして、あえて今回は天気予報をチェックしないことにした。変わりやすい週間予報を見て一喜一憂するのも、予報に怯えて無駄に策を練るのも止めよう。どっしり構えて、あるがままに楽しむのだ。

そうは思ったものの、やっぱり出発の数日前には天気予報が気になって見てしまった。昭和の名言によると、反省だけならサルでもできるらしいので、僕はサル以下という事だろうか。やはり自らの策に溺れるような、器の小さい小物である。

到着日の予報は晴れか曇り、2日目は崩れるものの、最終日は晴れの予報だった。滞在期間中、少なくとも丸一日は晴れるようで、北海道らしい美瑛の風景を楽しむことが出来るだろう。わりと大らかな気持ちで快晴の東京を飛び立った。

旭川空港に着くと曇りだった。ラベンダーのシーズンは終わってしまったが、まずは花畑を見に富良野へ向かう。午後から晴れそうな予報だったので、僕の中でメインの美瑛は後回しにした。

期待通り、午後からは晴れた。行きたい場所の目星は大まかにつけておいたので、地図を見ながら美瑛をレンタカーで走る。半日あれば回りきれた。さらに探せば写真的に良い場所は見つかるだろうが、美瑛も富良野も想像以上に人が多い。美瑛は満足できたので、2日目以降は別の場所を探すことにした。

翌日は小雨まじりの曇りだった。風景写真は諦め、旭山動物園に行くことにした。さすがに夏休み中の週末という混み方である。

そして3日目は予報通り晴れた。まずはロープウェイで旭岳に行った。その後、美瑛に戻り、新栄の丘という夕日スポットへ向かった。

新栄の丘の夕景は、どこかで日本最高の日没風景と読んだことがある。太陽が高い位置で山の陰に入るせいか、光量が多くて撮影条件としては厳しいが、美しい光景を撮影できた。日本最高ではないかもしれないが、確かに素晴らしい夕景である。新千歳経由での帰路だったら時間的に間に合わなかったが、旭川からの最終便が取れたので訪問することができた。

今年の夏は北日本で豪雨が多く、北海道も気候が安定しないようだった。それでも効率の良い回り方ができ、美しい北海道の景色を楽しむことができた。

あの時、熊野に行ったのは間違いではなかったかもしれない。策士は策に溺れたと見せかけて、じつは水面下に隠れていたのだろうか。

なにせ僕は器量に乏しい小物だから、そんな忍者みたいな事はないだろう。そんな僕にも北海道の神様がセカンドチャンスをくれたことは間違いない。