たいぺいのおもいで

今年のオッサン旅行は行き先が決まらず。春先から、イタリア、スペインあたりを検討はじめるも、決めきれないまま時は移ろい、秋になっていた。こういう状況になると手段が目的化するのはありがちなことで、とりあえず近場に行くことになった。今年の旅行は今年中に済ませてこそ、今年の旅行と呼ぶにふさわしい。

検討の結果、台湾になった。シンガポールほど遠くなく、香港ほど派手ではなく、ベトナムほど異国感はない。

台湾経験者によると、台湾で良かったのは故宮とのことであった。それに台北郊外の九份という町も風情があっていいらしい。しかし、美術館の類は苦手だし、観光地らしい観光地も苦手である。故宮も九份も止めた。

故宮と九份を除くと、台湾の観光はかなり地味になる。地方への小旅行をして、あとは台北をブラブラしているしかない。昼は問屋街を、夜は夜市を歩く。

夜市を歩いていると、屋台で立ち食いということになるが、人ごみの中、どうも落ち着かない。それに油がきついので飽きる。通りがかりに苦茶というのを発見。油をお茶で洗い流してリセットしようと思うが、お茶の苦さにダブルパンチを受ける。

地味だが台北は手強い。

ちゅうかがい

オッサン友達と横浜バーめぐり。途中、汁物を求めて夜の中華街を歩いていたが、どこに入ればいいのか分からない。

ふとみると、ポツンとボロい中華料理屋があった。入り口を覗くと、テーブルの上にビールの空き瓶が放置されている。

キリンラガーの大瓶。奴が呼んでいる。そう感じた。

店に入ると、コックの格好をした爺さんが一人、新聞片手に座っている。

店全体が切ない場末感で溢れている。

ビールとワンタンを頼むと、爺さんはビールを出し、店から出て行った。

地味な食堂にオッサン二人取り残される。ラジオの深夜放送がかかっていた。空虚なジョークが響く。切なさは既に痛々しい程になっている。

ラジオに飽き、ビールにも飽き、地上の営みから取り残されてしまったのではないかと思い始めた頃、爺さんがワンタンを持って店に戻ってきた。店に入ってワンタンを頼んだのに、爺さんは店の外から出来上がったワンタンを持ってきたのだ。

宮沢賢治の世界のようだった。