くにさきのおもいで

昨年は初めて大分県を訪問した。以前から話には聞いていたのだが、大分空港は不便そうな場所にあった。別府までバスで50分、大分市内だと1時間を超える。まったく知らなかったのだが、大分空港は国東と書いて「くにさき」と読む半島に位置しているとのこと。 九州北東部、周防灘に面して丸く突き出ている部分である。

その国東半島は古い石仏や寺院で有名なところらしい。ちょっと興味が湧いてきたが、公共交通機関だけで国東半島をまわるのは難しそうだった。紅葉の時期がベストシーズンらしいが、車の運転が嫌いな僕は、グジグジと悩んでいるうちに機会を逃してしまった。

今年に入って改めて調べてみると、大分交通の定期観光バスが運行されていることが判明。朝一番に羽田を出るソラシドエアに乗ると、その日のうちに途中のバス停から参加できる。新緑の時期は関アジのシーズンでもある。かなり心が動いた。

オッサンはワガママなので、前向きに心が決まると、観光バスでの集団行動がイマイチに思えてきた。撮影がメインの旅なので、訪問する場所の数よりも滞在時間を重視したい。しかも羽田発が1時間半ほど遅いJALにすると、定期観光バスには間に合わないものの、特典航空券に空席があり、しかも座席配置が好きなボーイング767だった。

結局、定期観光バスの利用は止め、北海道以外で初めてレンタカーを借りることにした。

普段であれば公共交通機関のダイヤを調べる必要があるので、事前のリサーチは欠かせない。しかし今回はレンタカーの予約をした時点で満足してしまい、出発の数日前になっても国東半島について分かっていないままだった。

せっかくの休みを無駄にしそうになり、慌ててリサーチを開始。旅行系サイトから行きたい寺院の目星をつけ、地図をプリントアウトして丸をつける。おおまかなルートが完成したのは、出発前日のことだった。

大分空港で車を借り、あとはカーナビに言われるがまま車を運転し、国東半島をまわった。ちょっと足をのばして、臼杵石仏や耶馬渓も見ることができ、かなり効率がいい。

ところで国東半島にある豊後高田の名産は蕎麦らしい。つなぎなしの十割蕎麦を売りにしている店が多いとのこと。そういえば今まで西日本・九州で蕎麦を食べたことがないが、僕自身は東京下町育ちの蕎麦喰いである。短気せっかちなのは美徳ではないが、蕎麦好きは美徳である。と思う。

せっかくなので豊後高田で蕎麦を食べてみよう。新たな発見があるかもしれない。

一軒目は山の中にある旅館が経営している蕎麦屋さん。週末は行列になることもあるらしいが、金曜だったせいか無難に入店できた。 ちょっと小粋な店構えで、本来であれば昼酒といきたいところだが、そういうわけにはいかない。運転というのは本質的に自由ではないのではないか。ブツブツ言いながら、せいろを一枚注文。

さっそく食べてみると、なんとなく違和感がある。ちょっと太めの田舎蕎麦ふうだからだろうか、食べ慣れない十割だからだろうか。それだけではない気がするが、せいろ一枚だけでは釈然としない。二枚目を食べて謎の解明にあたりたいが、酒を飲めないハンデもあり、謎の解明は二軒目に持ち越し。

二軒目は泊った宿の夕食だった。最初は蕎麦の付かない食事プランにしていたのだが、ここでも豊後高田の蕎麦が食べられると分かり、食事プランを変えた。この店の蕎麦は細くてコシがある。僕が食べ慣れた二八と似ており、違和感が分かりやすかった。

結局のところ、蕎麦つゆが甘いのである。それも角が取れてマイルドな仕上がりになっているというレベルではない。蕎麦の前に刺身を食べて分かったのだが、地元の醤油がかなり甘い。これに随分と影響されているように感じた。

九州の醤油が甘いのは知っていたが、経験があるのは福岡あたりである。これが大分まで来ると更に甘くなり、新たな発見というか、違和感になってしまったようである。

昨年、北海道でレンタカーを借りたとき、車の運転だけで移動時間が終わってしまい、ボケっと何かを考えるヒマがないと思った。それはそれで事実だが、定期観光バスを利用していたら豊後高田で蕎麦を食べようとは思わなかっただろうから、大分県で醤油について考えることもなかった。今回の蕎麦経験はレンタカーを借りたおかげだろう。

一方、レンタカーを利用すると、昼酒を楽しめない。これはボケっと何かを考える時間よりも大きな代償と言える。さすがにレンタカーで運転代行を頼むわけにもいかないだろう。

レンタカーを借りたとしても、昼酒を楽しむ方法はないものだろうか。

旅の記録:北東北

記載の時刻等は訪問時のダイヤです。

1日目

羽田 0750 (JAL141) >> 青森 0905

青森空港 0920 (弘南バス) >> 浪岡 0933

浪岡 1021 (奥羽本線) >> 川部 1029
川部 1038 (五能線) >> 深浦 1244

ランチ:セイリング

深浦 1441 (五能線) >> ウェスパ椿山 1456

宿泊:黄金崎不老ふ死温泉

1日目Tips
昨年の訪問時と実質的に同じ、当日中に最も早く黄金崎不老ふ死温泉に到着できるスケジュール。
・浪岡駅に「あぴねす」という青森市の施設が併設されており、おやつに売店で青森リンゴジュースと地元お菓子を購入。ちょっと地産地消。
・深浦での乗り継ぎ待ち時間に「セイリング」という料理店でマグロとシチューと日本酒。昨年も来ているのだが、やっぱり素晴らしい。ここのために深浦で降りる価値はある。

2日目

ウェスパ椿山 0935 (五能線・快速) >> 東能代 1037
東能代 1056 (つがる2) >> 秋田 1145
秋田 1213 (こまち224) >> 新花巻 1402

宿泊:鉛温泉藤三旅館・十三月

2日目Tips
・大館駅の駅弁「鶏めし」が秋田駅で買える。すばらしい。
・地震による東北新幹線の運転見合わせの影響で、秋田から乗り換え無しで新花巻。普段だと盛岡から「はやぶさ」と併結になって、新花巻は通過してしまう。
・秋田~盛岡はネット予約の割引で安いが、秋田~新花巻には割引の設定がない。しかも東北新幹線と秋田新幹線は特急料金が別建てで計算されるせいか、秋田~新花巻を通して指定券を取ると妙に高い。結局、盛岡〜新花巻は自由席で精算。

3日目

花巻 1027 (東北本線) >> 平泉 1108

平泉駅前でレンタサイクル借り出し
中尊寺
毛越寺
達谷窟毘沙門堂

平泉 1451 (東北本線) >> 花巻 1532

花巻空港 1700 (JAL4954) >> 羽田 1805

3日目Tips
・なぜか平泉に行く時は季節はずれに暑く、東北線の普通電車も混んでいる。今回も毛越寺の良さは分からずに終わった。
・平泉駅前のレンタサイクルには電動自転車があった。上り坂が続くので、普通の自転車だったら達谷窟毘沙門堂は諦めていたと思われる。それでも片道6キロは遠い。
・花巻空港からはJ-Air運航の羽田便。新幹線運休による臨時航路である。

きたとうほくのおもいで

今年の冬は、山形の蔵王で樹氷、北海道のオホーツク海沿岸で流氷を満喫したが、やや心残りだったのが北東北である。正月休みに一泊だけ青森の酸ヶ湯温泉に行ったが、もうちょっと東北の冬を楽しみたい。冬の名残に、前々から気になっていた、岩手県花巻の鉛温泉に行ってみることにした。

ちょうどCOVID-19が落ち着きを見せ始めた時期だった。観光客が戻り始めたら、混んだ温泉が苦手な僕には難関になるであろう、黄金崎不老ふ死温泉にも改めて行っておきたい。

4月上旬に休みをとって、冬の締めくくりとして北東北をまわることにした。

ところで、オッサンになってから気圧の変化に対応できず、台風が来ると頭痛に悩まされている。季節の変わり目も苦手になってしまった。適応力が落ちたと言うか、自律神経の調和に難があるようだ。

今年の関東は3月に入って急に暖かい日が続いたり、かと思うと真冬のように寒くなったりと、寒暖の差が激しかった。

オッサンはオシャレではないせいか、基本的な防寒をダウン1着で済ませている。しかも、旅行先の週間天気予報は何度もチェックするが、自宅周辺の天気予報は基本的に見ない。暖かいのにダウンを着続け、数日後に懲りて春物ジャケットを出したら寒くて凍えるなど、寒暖差を自ら助長する日々が続いた。しかも数年ぶりに花粉症を発症してしまった。

おかげで3月末には自律神経の失調に起因すると思われる、諸々の体調不良に悩まされることになった。いわゆる春バテである。

なんとも言えない不振に2週間も苦しんでいたら、4月上旬になって、わずかながら改善されてきた。いくらなんでも順応しつつあるのだろう。

3月16日の大地震による新幹線運休もあったが、そこで諦めないのが、僕が僕たる所以である。代替交通手段を確保し、北東北に向かった。

旅行初日の朝、青森空港に着くと気温は3度だった。空港周辺には雪も残っている。せっかく春に慣れたのに、冬に逆戻りである。冬の名残を求めて青森までやってきたのだ。計画時点の本望ではあるが、理想と現実が異なることは多い。

五能線に乗って、黄金崎不老ふ死温泉を目指す。海側に行くと雪はなくなったが、それでも気温は大して上がらない。1着きりのダウンを着てきたが、それでも寒いものは寒い。関東の暖かい気候に慣れてしまったので、寒さが堪える。

翌日は快晴。早朝に海岸の露天風呂へ行ったが極寒だった。風が強くて体感気温は更に低い。着てきたダウンも露天風呂では役に立たない。早々に退散して室内の温泉に向かったが、風邪をひきかけた可能性が高い。

朝食を食べてから再び五能線に乗り、秋田経由で花巻へ向かう。この日は昼前から気温がグングン上昇。到着時の花巻は23度になっていた。ちょっと汗ばむ位だ。

五能線での移動中から、全身に疲労感があった。喉も痛い。夜になって、くしゃみも出始める。本格的に風邪をひいてしまったのだろうか。普段なら葛根湯とプロポリスだが、旅行中ということもあり、秋田駅での待ち時間に風邪薬とユンケルを購入。

いまはCOVID-19時代なので、あちらこちらで検温されるが、幸いにも発熱の兆候はない。くしゃみは出るが、咳ではない。味覚もある。鉛温泉で1泊して自宅に帰り、葛根湯、プロポリス、のど薬、それに花粉症の薬を飲んで早々に寝た。これだけ飲めば間違いないだろう。

翌日、喉の痛みは少し改善していた。痛みがピンポイント化しており、風邪とは明らかに違う痛み方である。

鏡で見てみると、たしかに喉は腫れていない。念入りに見たところ、舌下の中心あたりに巨大な口内炎があった。のど薬は口内炎にも効くらしいが、原因が分かったので口内炎用の塗り薬に切り替え。

くしゃみも止まっていた。こちらは花粉症だったのだろう。低温の青森では花粉の飛散が少なく、薬なしでも無症状だったのが、高温の岩手は花粉が大量飛散していた可能性がある。完全に油断していた。こうなると全身の疲労感は湯あたりだったかもしれない。

あの日は一日で約20度の寒暖差があった。なんとか回復してきた自律神経は危機的な状態だったと思われる。結局、風邪ではなかったのだ。

オッサンになると季節の変わり目は過酷である。