2010/01/06 たびにでた

三年くらい、オッサン二人でキューバに行こうと思っていたのだ。

くばーな。

古い建物と、昔のアメ車。すべてはフェデル・カストロと経済制裁のおかげである。

帽子をかぶり、葉巻を片手に、ちょっとハードボイルドっぽく街を歩く。夕暮れのハバナの街を歩き、バーでモヒートを一杯。
カストロが死んだら、アメリカ本土の経済力が入ってくる。混乱、乱開発。

だからカストロが死ぬ前にキューバに行かなくてはならない。そう思って3年たった。

キューバは遠い。アエロメヒコで太平洋を渡る気はないし、アメリカ経由で3回も乗り継いだ最後にエア・クバナに乗る気もない。エア・カナダのトロント経由のみである。それだけでトロント二泊。

まぁ、しかし、今年こそは行こうと思った。去年か。

まぁ、しかし、去年は最悪であった。人生に疲れていた。10月末が最悪のピークだった。キューバの日程を決める直前。

カリブは無理だと思った。きっとモノゴトがうまくいかないに決まっている。タクシーにボラれ、スリを警戒し、道に迷い、へんなオッサンに声をかけられる。休みに、そんな気力はない。

すでに会社の休みは取っていたので、どっかに行こうと思った。モノゴトがうまくいき、タクシーにもボラれず、スリも少なくて、道に迷うこともなく、個人主義で放っておいてくれるところ。

というわけで、スイスに行った。そして、カストロ、死ぬな。

2009/08/30 なつやすみ

なつのおもいで。しんりんれっしゃ、やまね。

ふたたびスイスに行こうと思ったが、そんな金もヒマもなく、長野あたりヘ出かけてみた。

木曽で森林列車にのった。檜の森林で心が洗われた。洗われたそばから汚れるオッサン心。

八ヶ岳でヤマネを見た。なにかを守らなくてはならない義務感に心が引き締まった。背中の模様にコハダを想像してしまった汚れたオッサン心。

残念ながら長野では心の汚れは落ちない。スイスに行かないと心はキレイにならないが、それでもキレイでいられるのは数ヶ月である。

2009/08/08 ばっし

15年くらい前に親知らずが痛くなって歯医者に行ったら、下の親知らずが斜めに生えているので、隣の歯を圧迫するから痛くなると言われた。ただ、しばらくは様子を見た方がいいって。

ロサンにいたころ、試験の時期になると親知らずが痛んだ。ストレスがたまると、親知らずが伸びようとするんだと固く信じていた。隣の歯を圧迫するのだ。でも抜くのは大変。バーでピスタチオを食べるがごとく、アスピリンを飲んだ (アメリカ人そのもの)。黄緑色の鼻水が出たのも、この頃である。

サラリーマンになると試験はないので、親知らず問題はなくなった。

・・・というか、忘れていた。先週までは。

年始以来のストレスと、大嫌いな夏のせいで久々に親知らずが痛くなった。隣の歯を圧迫しているのだ。いまなら保険も気にしないで歯医者に行ける。

で、歯医者に行った。近所の歯医者である。腕のいいオッチャンらしい。

そうしたら、オッチャンに「歯茎が痛いのか、歯が痛いのか分かる?」と聞かれた。

その違いは良く分からない。どっちだっていいじゃないか。どうせ斜めに生えている歯が悪いのだから。

するとオッチャンは上の親知らずが下の歯茎を圧迫して炎症を起こしているに違いないというのである。「レントゲンを見ると、この下の歯は伸びる力ないね」だって。

は? 歯だけに。

「上の歯は真っ直ぐ生えてるからね。出っ張っているところもあるし。これが伸びようとしているのか、ストレスで無意識に歯を食いしばっているのかどっちかじゃないかなー」

不景気の時代に歯を食いしばって生きる。文字通りだ。

「こんなのすぐ抜けるからね。しばらく抗生物質で様子を見て、気になるんなら抜いちゃえば。ぼくの見立てが悪くて、もし下の歯が原因だったとしても、上の親知らずは抜いても大丈夫だから。でも本当に下だったら、骨の中だから、うちじゃ無理だよ」

15年間信じていたものが崩れた気がした。

水曜日の夜の出来事である。

そして、さっき抜いてきた。アッサリしたもんである。順番待ちで30分、麻酔に5分、抜歯に3分、止血に20分、支払に2分。1時間後には抜いた歯を持たされて外に出ていた。

15年間の誤解とは1時間余りで決別した。少し大人になった気がした。