もひーと

実際のところ、二度目のハバナに至った理由は一軒のバーである。

ヘミングウェイが通っていたバーから南へ1ブロック。前回のハバナ滞在時、最終日の夕方にフラフラと入ったバーだ。店の名はRestaurante Castillo de Farnes。もう一度、ここに行きたかった。

なんの変哲もないレストラン兼バーである。そして、なんの変哲もないモヒートが出てくる。

とはいえ絶品である。

通りに面したテーブルがオープン席になっており、夕方になると、いい風が入ってくる。控えめに愛想のいい従業員が数人。混雑するでもなく、ガラガラというわけでもなく。時間帯によってはスペイン語のテレビ、運がいいと隣の店に入っているバンドの演奏。キューバ人の客は少ないが、観光客ばかりというわけでもない。ほどほどな日常感である。

そしてモヒート。

まずはミントを丁寧に扱っている。客のいないときは袋にいれて冷蔵庫にしまってあるし、使う前に茎やらダメな葉っぱやらを丁寧に取り分けている。それを念入りに潰す。ラムはドボドボいれるものの、ソーダはメジャーで測ってから入れるという、ちょっと分からないことになっているけど。そして最後にビターを数滴。

客の多いバーは、ミントをグラスに入れたまま出しっぱなしにしていたり、途中まで作りおいたりして、ちょっと雑然としており、結果的に大雑把な味になってしまっているが、ここは丁寧な仕事である。モヒートに限らず南方系のカクテルは大まかに作るものと誤解されがちであるが、丁寧な仕事には違いが出る。モヒートでもマティーニでも同じことなのだろう。

毎日、ここで砂糖抜きのモヒートを飲んでいた。ちょっとヘミングウェイぽい。ヘミングウェイみたいにバーの一席を潰して銅像を建ててもらうまでには至らなかったが、砂糖抜きモヒートの日本人として覚えられていた。しかも日を追うごとにラムの量が増えていく。

帰るべきバーが一軒ふえたのは素晴らしい。

なりたくうこうのおもいで

なりゆきで急にシンガポールに出張することになった。出張ということは仕事であり、それは英語にするとビジネスではないかと思ったものの、席はエコノミーである。

ときは夏休みシーズン。マイルを貯めているJALは正規料金しか空席がなく、なんとなくシンガポール航空。今年はエールフランスに乗ってみたり、どうも無駄に飛んでいる。

行きは朝の羽田便か、昼前の成田便ということだった。早起きして羽田に行っても得るものは何もないので、久々に成田の第一ターミナル。梅雨の中休み、空が高く青い。こういう日はビールに限る。昔の記憶を辿るとギネスをおいているバーがあり、なにはともあれバーに行ったものの、アサヒに変わっていた。

眼の前ではルフトハンザの飛行機が出発しようとしており、このままスーパードライを飲んでシンガポールに行っていいものか悩む。ドイツへ行って、デュンケル、バイツェン。そのあと乗り継いでダブリンでギネス。そんな人生があってもいい。

しかしバーにギネスがなかったという理由で、ルフトハンザに乗せてくれるかどうか疑わしい。そんな理由でクビになるのもイヤだ。人生とは自由なものではないのかもしれない。

自問自答しているうちにルフトハンザは飛び立ち、スーパードライは3杯目になっていた。

ろんどんのおもいで

ベネチアからオリエント急行でロンドンに向かった。

ブリテン島では基本的にスコットランドを目指すことにしており、乗り継ぎなど以外、あえてロンドンに滞在することはない。今回もオリエント急行に連れて行かれるがまま、なんとなくロンドンに行ってしまったようなところがあり、どうもロンドンは食わず嫌いである。

拒否できないときのみ、止むを得ず。僕の中ではロンドンと生牡蠣は同じポジションである。

どうもロンドンは微妙だと思っていた。物価は高いし、発音できないような地名は多いし、わざわざ行きたいようなレストランもない。

今回のロンドンではビール醸造所に行ってみた。ここ数年、cask conditioned aleという、ハンドポンプで注ぐエール・ビールに興味があり、日本では飲む機会も少ないので、試飲がてら見に行こうかと思ったのである。

Tubeにのってロンドン郊外のFuller’s Breweryへ。テムズ川沿いにあるLondon Prideの醸造会社である。

醸造所の脇に直営のパブがあるが、金曜の午後に行ったせいか、すでに従業員が飲み始めていた。全体的に週末の気分が漂うなか、気のよさそうな爺ちゃんのガイドでツアー。ビールの製造工程はウイスキーの製造工程の前半とほぼ同じなので、たいして発見はない。むしろ興味は試飲場で、ポンプ式のサーバーはどういう構造になっているのか、である。「どうなってるのよ?」と聞いたところ、いろいろ説明してくれて、「じゃ、やってみろ」とのこと。

つまりは、そういうことである。人生、試して分かることも多い。食わず嫌いは良くないと思ったが、それでも生牡蠣はイヤだ。